すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
いつものように会話のない無言の車内だけれど、前のように不思議と居心地の悪さは感じなかった。
それは藍里の心境が変わったからか、智大の雰囲気が変わったからか、それともそのどちらもなのかは分からなかったが、以前と違って藍里の気持ちは落ち着いていた。

「……藍里の負担にならなかったら、帰る前に寄り道しようと思ってる」

「寄り道……?」

「兄貴からチーズケーキが好きだって聞いた。
……退院祝いに」

「あ……」

智大の口から出た“祝い”と言う言葉に藍里は小さく声を漏らし、やがて小さく微笑んだ。

「嬉しい……ありがとう」

出来るだけ思っていることを声にして智大に伝える。
今まで怖くて出来なかったことだけれど、智大の想いを知った今、藍里の努力で智大に歩み寄れることを考えた結果だった。

藍里の素直な言葉に智大も嬉しそうに頬を緩ませた。

ーー智君は何のケーキが好きなのかな?
ケーキ屋さんに着いたら聞いてみよう……。

好きな物や嫌いな物をお互い全く知らなかったけれど、今から少しずつ知っていくのも楽しいかもしれない。
例え、ケーキ屋で甘い物は好きではないと申し訳なさそうに言われて唖然としてしまう未来がすぐそこにあったとしても、それも楽しく感じられると思う。

ケーキを買いに寄り道をして、いざ我が家に帰ることになっても息苦しさを感じないことに気付いた藍里は嬉しく思ったのだった。
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