すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「楽しくないか?」

「え?」

「俺と一緒だと、楽しくないか?」

急激に悪くなった智大の機嫌に、藍里は自分の失言に気付いて青褪める。
溜め息をついた後にあんなことを言ったら、今のこの状況が楽しくないと言っているようなものだったと気付いたのだ。

「違……そんなことない……」

「別に無理しなくていい」

「無理なんて……」

「お前はきっと、松浦みたいなのが結婚相手だったら良かったんだろうな……」

どこか遠くを見ている表情でそんなことを言う智大に藍里は耳を疑った。
前にも圭介の方が良かったんじゃないかと言われたけれど、その時とはまた違った様子に藍里は戸惑った。

「何で……松浦さん……」

「警察官らしい正義感溢れる言葉に威圧を感じさせない笑い方だったし、あの時、お前最後に松浦に対して緊張解いて笑ってただろ」

「だって、それは……」

「俺にはあんなにすぐに笑顔見せなかったのにな……」

「え……」

智大の言葉に覚えがあった藍里は反論しようとしたが、最後に消え入りそうな声で呟かれた言葉を聞いて目を見開いた。

「智君……もしかして、やきもち……」

「そんな可愛いもんじゃない。自業自得なのが分かってるのに自分でも驚くくらい嫉妬してるし、焦ってる」

格好悪いな……。と、視線どころか顔すら反らしてこっちを見ないようにしている智大の手は、強く握り締められていた。
藍里はさっきまでの焦りが一瞬で消えたのを感じると、そっとその手に自分の手を重ねた。
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