クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「スイーツの世界大会、ですか?」

和生は、開いていたノートパソコンを愛菓に見せながら、まるで会社の会議のようにプレゼンを始めた。

「はっ?負けたらフランスに修行、ですか?これまた突拍子もない・・・」

呆れたような物言いは、クールな愛菓に紡がれると更に冷たさを増した。

「Jardin des bonbons。フランス語でお菓子の庭。そこのオーナーがこの大会の出資者です。マサキヨシザキ。彼が愛菓さんに勝負を仕掛けてきた張本人です」

゛Jardin des bonbons゛はフランスに旅行する日本人だけでなく、世界中の旅行客向けのガイドブックに載るほど有名なパティスリーだ。

そこの現オーナーであるマサキヨシザキは、32歳の日系三世、いわゆるクオーターだ。

「le sucreでも思いましたが、私は誰かとライバルとして競い合いながら、何かを模索するのは得意ではありません」

愛菓は、二人がけのソファの左側、そう、和生の横に腰かけると大きく首を振りながら言った。

「留学も一度は考えたことはありますが、私は今のこの新しい環境に満足しています」

それは、和生の予想していた答えと違わず、和生は内心、ホッとしていた。

が、

「でも、」

「でも?」

「売られた喧嘩は買うのが武士」

「いや、愛菓さんは武士ではないし・・・」

「いえ、精神論の問題です。相手のお話だけでも聞く価値はあるかと」

フフッ

と、和生は苦笑いをしながら隣に座る愛菓の頭を自分の胸に抱き寄せ、

「あなたが勝つと信じていますよ」

と、不敵な笑みを浮かべて頷いた。
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