クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「愛菓さん、そこまでですよ。これ以上はあなたの身体に差し障る。強制連行です」

和生のドスの聞いた低い声に、ゆっくりと愛菓が顔を上げた。

「和生殿、申し訳ない。ホテルのセキュリティ上良くないことだとわかっていながら・・・つい。直ちに撤収します」

午前0時。

気づけば日を跨いでいた。

吉崎のスイーツを愛菓に渡した後、一旦専務の執務室に戻って仕事をしてきた和生だったが、愛菓の帰宅を確認しに来た店内で、いまだに作業を続ける愛菓を見つけてしまった。

テーブルには美しいスイーツの数々。

どれもまだ、商品としては店内に売られていないものばかりだ。

「吉崎に勝ちたい気持ちはわかります。ですが、あなたが体を壊したのでは元も子もないでしょう?」

「勝ちたいだけではありません。吉崎さんのあの美しいスイーツに感化されてしまって・・・」

そういう愛菓は興奮冷めやらぬといった感じだったが、大きくため息を一つすると

「ごめんなさい。和生殿に心配かけて、私は家臣の風上にもおけませんね」

と頭を垂れた。

そして、黙々と片付けを始める。

和生は、そんな愛菓のもとに近づくと

「愛菓さんは家臣でも家来でもない。私の大切で努力家な愛しのパティシエールです。あなたの頑張りは認めていますから」

と言って、愛菓が洗った器材を丁寧にフキンで吹き上げていった。
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