クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
『吉崎さんが作っているのは、クッキーのようですね。ケーキのスポンジも作っているようです』

『美しい手さばきです。さすがフランスを代表するパティシエですね』

MCの女性の横では、有名なホテルのシェフ兼パティシエとしてメディアで活躍している゛松阪晴臣゛が解説をしていた。

松阪も当然、審査員の一人であり、貴重な一票を持っている。

ただし、会場の5人の菓子職人にプレッシャーを与えないように、実況中継の音声は流されていない。

だから、気にしなければ、お互いの動きはわからないようになっている。

『おや?カスタードの魔術師、氷山愛菓さんが珍しくショコラのテーパリングを行っていますよ。ああ、美しい手さばきです』

会場からもその滑らかさと愛菓の姿勢のよさと容姿の美しさが相まって、思わずため息が漏らされた。

『ええ、氷山さんは長らく゛le sucre゛に勤務されていましたし、あのショコラ王子と名高い゛佐藤優吾氏゛とも切磋琢磨した仲ですからね』

松阪の言葉にMCの女性も同意をする。

「氷山さんのテーパリングを拝見できる貴重な機会に立ち会えるなんて皆さんラッキーですね』

その手さばきは、先ほどショコラ部門で腕を振るった優吾にも全く引けをとらない。

これまでは優吾に遠慮していたのではないかと推測できるほど完璧だった。

他のパティシエも次々に作品に必要なお菓子のパーツをこしらえていく。

さすがは世界大会に出場するメンバーだけあって、レベルの高いものだった。

しかし、審査員には一般市民の投票数も影響する。

庶民の舌も唸らせる必要があるのだ。

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