君の隣で、色を見たいんだ
その絵は、本を真剣な表情で読んでいるみどりの姿だった。色塗りは途中だが、まるで写真のようだ。

「……私、こんな顔をしているの?」

みどりは、何度か男性に絵を描いてもらっている。そのたびに思うのだ。優しく微笑んでいる絵、眠ってしまった絵、男性の描いた絵の一つ一つを見るたびに、自分の見えない自分が見えるそんな気がした。



みどりと男性が出会ったのは、みどりがイタリアに来て三ヶ月ほど経った頃だった。

イタリアは、もともと大小様々なコムーネ(共同体)の集まりだったため、地域ごとの文化などが違う。古代ローマ帝国の中心地であり、掘れば遺跡が出てくる世界でも有数の歴史遺産だらけの国だ。

「はぁ……」

サン・マルコ広場に友達と遊びにやって来たみどりは、ベンチに座りため息をつく。友達はトイレへ走って行った。

目の前に広がっているのは、美しい建物。とてもロマンチックな光景に、恋人同士で来ている人も多い。

みどりは、幸せなそうな恋人たちの姿をぼんやりと見つめていた。恋人たちの周りに飛び交う色は、甘いピンクだろうか。それとも、情熱の赤だろうか。
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