同じ人を好きになるなんて
「そう思ってくれるのは嬉しいけど……私はこれでお金をいただいてるので、それ以上の感情はない」

本当はこんなこと言いたくない。

自分で言っておきながら胸の奥がぎゅーっと締め付けられるような痛みを感じた。

「本気で言ってんの?」

陸斗の私の心を射抜くような目がさらに私の心を締め付けた。

「嘘なんて言ってどうするの?」

強気の発言をしたけど陸斗の顔がまともに見れなかった。

「どうして目をそらすんだよ。本心だったら俺の目を見え言えるだろ?」

語気を強めた陸斗の声を私は初めて聞いたかもしれない。

付き合っていた頃、何度も喧嘩をしたが怒るのはいつも私の方で、陸斗はただ黙っって聞いていた。

声を荒げるほど大きな声なんて陸斗には無縁だった。

心臓の音がドクドクと小刻みに聞こえる。

それでも私は本当のことを言うことが怖かった。

先が全く見えない将来。

私の一言で何もかもが変わるような気がしてならないのだ。

「何を勘違いしているのかわからないけど……私たちは五年前に終わってるの。

 だからこれ以上私の心をかき乱さないで」

キッと睨みつけるように訴えた。

これでいい。私の選択は間違っていない。

そう思っていた。
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