俺の、となりにいろ。


「桐谷くん。申し訳ないけど、午後の会議で使うクリアファイルを十冊、備品室へ行ってもらってきてくれないかな」
「わかりました」

先輩の言われたとおり、まだ足を踏み入れたことのない四階の備品室を訪ねた。
「失礼します」と入れば、ドアのカウンターに男が一人立っていた。
シルバーフレームの眼鏡に黒のスーツ。首からICカードを掛けていた。

名前は、城ノ内和也。

「備品の依頼ですか」
と、彼の機械的な話し方に「はい」と返事をする。
クリアファイルを受取り、部屋から出ようとした。
ドアの横に掛けられた、小さなホワイトボードを見つけた。そこには『松坂 12F』と書いてある。

「…すみません。この松坂というのは…」

何気に質問してみた。

城ノ内さんは冷めた声で、
「ここに勤務している社員です」
とだけ答えた。
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