クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
目を瞑り気持ちに蓋をして傷つかない道を選んだ。

夫の恋はいつか終わる。

王女は政略結婚で他国に嫁ぐし、リアナはリカルドの子を宿している。

離縁など出来るはずもない。

しばらく我慢すればいいと思ったから。

そんな打算での行動だった。とても夫の幸せを願っている者の考えだとは思えない。

結局は自分が一番可愛かったのだ。

(私、本当に馬鹿だわ)

今頃になって気付くなんて。

エルドラ王女が嫁ぎ国から離れたら全て終わる。
そんなことがあるはずが無かった。

人の想いは簡単には割り切れない。幸せも傷ついた記憶もいつまでも残るのだから。

リカルドにはエルドラ王女へ恋した記憶が残り、リアナには夫の恋を知り負った傷が残る。

それらから目を逸らして幸せな暮らしが送れるとは思えない。

何かもが元通りになんて、なるはずがなかったのに。



どれくらいの時間が過ぎたのか、遠くから人が近づいて来る気配がした。

リアナは素早く立ち上がり、池から離れる。

トリアの治安は良く、危険な動物もいない。警戒する必要もないはずだが、なぜか嫌な予感が襲って来た。

大きな木の影に隠れ様子を伺っていると、森の樹々よりも深い緑色のスカートが視界に入った。

(エルドラ王女? どうしてここに?)

護衛もつけずにひとりで館から出て来て良いものなのだろうか。

いくら安全な土地だと言っても王女という立場は狙われやすい。

かつて父も、王族はどんな時にも十分な護衛をつけなくてはいけないと言っていた。

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