Match maker
「じゃあ、キスは?」

「そ、それはあるに決まって!…ます…。」

「僕、以外?」

当然なのに、聞いてしまう。

「…まぁ、そりゃ。いい年ですし、私…それくらいの経験は…」

「それくらい?」

「もう!それくらいというか、あるでしょ!それ以上も!彼氏がいたことくらい…あるんだから!」

さっきまでの気分が台無しになるように

心にもやがかかる。

思い出したのは、初めて会った日の雅実の姿。

あの飲食店での…男性に腕を絡めた姿だった。

「田中さん!?足止まって…」

彼女が振り向くまで気づかなかった。

自分の足が動いてなかった事に。

「あ、ああ…ごめん。」

再びペダルを漕ぎ始めた。

過去に恋人がいたことなど、知っていたというのに…

落ち込むには、その情報だけで十分だった。

落ち込む?

なぜだろうか、知っていたことを彼女の口から聞いただけだというのに。

……【聞きたいから、聞く。それは、興味やろ。】

勿論、彼女に興味はある。

だけど…“聞きたくない”なんて。

なぜだろうか。

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