エリート外科医といいなり婚前同居
「もうそんな時期かぁ……」
白い息とともに、小さく呟く。
今まで恋人とのロマンチックなクリスマスなんて過ごしたことのない私にとって、印象深いクリスマスの思い出といえば、遠い昔、子どもの頃の記憶だ。
毎年、父とふたりきりで、買ってきたチキンとケーキを食べて。寝る前に、サンタクロースへ宛てた手紙を枕元に置いた。
手紙には、拙い字で欲しいおもちゃを書くことが多かったけれど、ある年だけは違った。
それは確か、幼稚園に通い始めた年。それまで父と二人きりだった世界が急激に広がり、他の子にあって自分にないものを、認識するようになった頃だ。
父は優しいし、幼い私の面倒を一生懸命見てくれたと思う。けれど、医師の仕事は忙しい。
衣食住には困らなくても、遊び相手がいないというのがとても寂しかった。
みんなのように、お母さんがいればな……。
自然と周囲の友達をうらやむようになっていた私は、サンタクロースへの手紙にこう書いたのだ。
【おかあさんをください】
その手紙を読んだ当時の父は、つらかっただろう。
わくわくしながら夜が明けるのを待つ娘の枕元に、望まれているものとはまったく別のものを置かなければならなかったのだから。