仁瀬くんは壊れてる
 わたしの頭にそっと乗せられた、仁瀬くんの手が。
 あまりにも優しくて戸惑いを隠せない。

 怒っているの?
 笑っているの?

 それとも――、哀しんでいるの?

 感情が、汲み取れない。
 余計に泣きそうになる。

「なに笑ってるんだよ」

 髪を撫でる手はあたたかいのに。
 言葉は、氷のように冷たい。

 笑ってる? わたしが?
 こんなに怖くて仕方がないのに?

 わたしを捉える視線は、ナイフのように鋭い。

 あなたがズタズタに引き裂きたいのは。

 学園祭のために作られたものでなく。
 わたしの心、だ。

「ゴミ同然の人生を送っていたクセに」
 …………!!
「なに愉しそうにしてんの」

 指に髪を通されたと思ったら、ギュッと鷲掴みにされる。

「痛っ……」

 仁瀬くんは。
 わたしが幸せだと許せないの?

「なに張り切ってんの。一生懸命なんて。君に全然似合わない」

 そんなこと、わかってる。

「君がこの教室で、なにかしたところで。たいした成果も得られない。君の変わりなんて。幾らでもいる。もっと使えるやつ。ゴロゴロとね」

 わかってるよ。
 裁縫だって、上手くないし。
 ペンキ塗るのも少しもはやくない。

「それでも。できること、したい」
「足を引っ張るだけなのに?」
「……っ」
「君に優しくしてくれる連中は。心から君を必要としているのかな」 
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