仁瀬くんは壊れてる
 息を止めたのは。
 せめてもの抵抗だった。

 唇と唇が浅く重なったあと。
 すぐ、離そうとしたのに――

「ダメだよ、花」

 がっしりと。手で頭を抑えられて。
 離してはくれない。

 角度を変えて。
 何度も、何度も重ねられて。

 だんだん、深くなってく。

 不思議と前にしたときみたいな荒っぽさはなくて。

 さっきわたしの髪を痛いほど掴んでいたクセに。
 この人は、わたしをいたぶっているのに。

「花」

 呼ばないで。
 …………そんな、甘い声で。

 よくわからない感情が。
 奥の方から溢れそうになるから。

「君は僕の。僕だけの、花だ」

 大切なものを壊さないように、そっと、わたしの頬を撫でてくる。

 わからない。
 どうしてそんな触れ方をするの。
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