仁瀬くんは壊れてる
 特進の生徒は一般クラスを下に見ている、という話を聞いたことがある。
 実際にそれを感じ取る言葉をかけられたこともある。

 それがどうだ。
 仁瀬巧はこんな風に分け隔てなく優しく接しているのだから、誰からも好かれるわけだ。

 もちろん表面上そうしているだけで。
 心の底では、このクラスの子たちをバカにしている。

 さっきまで仁瀬くんの唇がわたしの唇に重なっていたなんてことは、誰も知らなくて。

「彼女いないってホントですか?」
 …………!!
「いないよ」

 その言葉さえ。
 本当かどうか、疑わしい。

「せっかくモテるのに」
「それ関係あるの?」
「えーっ、だって」
「あんまり考えたことないかな。一人の人間に固執するっていうことは」

 ドクン、と心臓が揺れる。

 よくいうよ。
 わたしをイジメることに粘着しているクセに。

「……コシツ?」
「つまり。可愛い子、いっぱいいるから。選べないんだよね」
「チャラい!」
「だけどそこがいい……!」

 いやだな、こういう話。
 沙羅とならいいけど。

 仁瀬くんのそういう話、聞きたくない。

 きもちわるい。

 ヘラヘラ笑いながら見下しているのも。
 簡単に可愛いって言うのも。

「好きなタイプあります?」
「いつもかわいい系の子っていうよりはキレイ系の女の子といますよね。先輩とか」
「長い髪でなきゃ仁瀬くんは相手してくれないって噂、あるんですけど」

 綺麗な先輩とキスしながら帰っていたよね。
 あの人には、わたしにするみたいな、イジワルしないのかな。
 可愛いとか、優しい言葉だけかけられているのかな。
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