ヤマタノオロチ
前 一節

「あ~・・・イワナ食いたい。イワナが・・・。」


 ナの村の隅には人が寄り付かない大きな雑木林があり、そこには、きれいな小川が流れている。


 様々な魚の生息地としており、当然そこは釣り人にしてみれば、格好の穴場スポットとなっていた。


「だったら、自分で釣れ・・・ほれ、もう一匹!」


 そこに、二人の男が釣竿をたらしながら、腰をつけていた。


 お互いに、安物の麻で出来た服を着ており、伸ばした髪を結ぶことなく、そのままぼさっとたらしている。


 当時の男共がしていた耳の横に神を8の字に結ぶ『ヤマト結び』などと言う髪形とは遠くはなれた髪型なのは言うまでもない。


 見るからに、はぐれもののといわんばかりの格好。


 事実、彼らは村から大きく離れたこの雑木林の中に居を構える『はぐれモノ』だった。


「ずるいぞ、オロチ!お前ばかり!」


 隣の男が、釣ったイワナを眺めながら、小柄の男が悔しそうな声を上げる。


 しかし、決して怒鳴った男のかごの中も魚がいないわけではない。


「スサノオ・・・お前は、釣りと言うものを分かってない。釣りって言うのは、ただ、エサをたらして待っているだけじゃダメなんだよ・・・ほれ、お前のさおも引っかかってるぞ。」


 オロチに言われて、スサノオと呼ばれた男は目線を自分の釣竿に向ける。


 すると、自分の釣竿が上下に揺れているのが分かった。


「お・・・おぉ!」


 言われて、一気に引き上げる。


 当然、当時の釣竿にリールなどという便利なものはついていないため、彼らの釣竿は、竹に糸をつけただけの、単調なつくりになっているものだ。


 魚が引っかかったら、釣竿ごと一気に引き上げる意外に、魚を引き寄せる方法を持ってない。

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