偽婚
「ユキさんは、ちょっと丸くなりましたよね」

「あ、わかる? 私の方は、体重オーバーで怒られたんだよ。私たち、足して2で割ればちょうどいいのにね」


笑いながら、私はユキさんのお腹をさすった。

ちょっとだけ、ぽっこりとしている。



「出産って、どんな感じですか?」

「んー。この世のものとは思えないほどの痛み? 死んだ方がマシだって思うレベル。でも、子供が無事に生まれたら、そんなの全部、吹っ飛んじゃうから不思議なんだよ」

「ほぇー」


先輩ママで、妊婦友達。

今はユキさんの存在が、私の中ではとても心強かった。



「頑張って産んでも、痛みが吹っ飛んじゃうから、世の中には子供捨てる親がいるのかな。うちの親とかさ。顔知らないけど。私には理解不能だけどね」

「そうですね」


私を捨てた母を想う。


母は私を妊娠した時、出産した時、どんな気持ちだったのだろう。

もう聞くことは叶わないけれど。



「あ、そうだ。住むとこ探してるんでしょ? 私も一緒に内見行きたいな。気分転換にもなるし」

「でもまだ迷ってるんですよね。それにつわりもひどくて、なかなか候補すら決められなくて」

「そっか。まぁ、大変だろうけど、みんないるから、ちゃんと頼るんだよ?」

「はい。ありがとうございます」


その時、ユキさんのお腹が、わずかにぽこっと動いた気がした。

赤ちゃんも応援してくれているみたいで、嬉しかった。


神藤さんがいなくても、私はもう、ひとりじゃないのだと思えるから。

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