偽婚
「何だか夢みたい。私ほんとにここに住んでもいいの?」

「結婚してるフリだからな。当然だ」


「そんなことより」と、私の感動を一蹴した神藤さんは、ファイルを差し出してきた。



「何?」

「お前はまず、これを暗記してくれ」


首をかしげながらも、ファイルをめくっていく。

そこには、神藤さんの生年月日や趣味、特技などが書かれていた。



「ほぇー。神藤さんって29歳なんだ? もうちょっと若いのかと思ってた」

「悪かったな」


確かに、偽装とはいえ、結婚相手のプロフィールは知っておく必要があるだろうけど。

さらに読み進めて行くと、私たちの出会いからプロポーズまでが、物語のように書き連ねられていて、驚いた。



「わー。これ、神藤さんが私にひと目惚れしたことになってるよ? 大丈夫?」

「出会いに運命を感じて、俺がお前にひと目惚れして、見合いを蹴ってプロポーズ。じゃなきゃ、突然の結婚の理由にならないだろ」

「それはそうかもしれないけど」


私の言葉に、神藤さんは肩をすくめて見せる。
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