偽婚


会う人、会う人に、自己紹介してほほ笑んだ。

みんながみんな、私でも知ってるくらいの大企業のお偉いさんで、こんな場で堂々としている神藤さんは、本当にすごいと思わされた。


ひと区切りついたところで、私と神藤さんは、休憩のためにロビーに出た。



「顔の筋肉が引き攣りそうだ」

「私も」


ドレスも、ヒールも、笑顔を作ることすら、慣れているつもりだった。

だけど、疲労感は、キャバの時の比ではない。



「明日、絶対、ご飯奢ってもらうからね」

「この状況で明日の飯のこと考えられるお前が羨ましいよ」


ひそひそと言い合っている時だった。



「ねぇ、見た? 神藤さんの結婚相手」


向こうで私たちのことを話している声が聞こえる。

嫌な予感に、思わず聞き耳を立ててしまう。



「確かに美人だけど、見たことない子だよね。どこの馬の骨だよって感じ」

「あーあ、私、神藤さんのこと狙ってたのになぁ。なのに、結局は顔で選んだだけじゃん。そんな人だとは思わなかった」

「あの女もさ、偉そうに、自分は世界で一番だとでも思ってそうじゃない?」

「おっさんたちにお世辞言われてちやほやされて、勘違いしすぎだよね」
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