箱庭ガール
夏2
 花菜は目の前の敦大を、ほんの少し見上げるようにして見返した。


「あっくんさ、背、伸びたね」


 つい最近まで、敦大の視線の位置は花菜と同じくらいの高さだったはずだ。
 しかし、今では花菜の視線の高さに敦大の口元がある。いつの間にか抜かされてしまったようだ。


「そ、そう……みたいだな」


 彼も初めて気が付いたような表情で彼女を見返した。


「そ、そりゃあ、いつまでもあんたと同じだったらおかしいだろ」

「まあ、そうだよね」

「……」

「……」

「なーに二人で見つめ合ってるのかな?」


 敬也はキッチンに入ってくると、今しがた届いた段ボール箱を床に置いた。


「み、見つめ合ってねぇし!」

「あ、届かなかったの?」


 彼は棚の上からひょいとかき氷機を取りだした。


「さ、二階へ戻ろうか。ここは暑くて嫌になるね。敦大は氷を持ってきて」


 そう言うと、敬也はかき氷用の器とスプーンを三人分箱の上にのせ、二階へと上がっていった。


「あ、私も持つね。そのために下りてきたんだから」


 花菜は冷凍庫を開けて氷を取り出すと、容器の中に手早く入れ始めた。


「なあ、あのさ……、」

「ん? 何?」


 敦大が押さえている容器を見つめながら口を開いた。


「今年の夏祭りって、行くの?」

「夏祭りかぁ。まだ誰とも何も話してないなぁ。どうして? あっくん、連れていってほしいの?」

「ばっ! ……あのさぁ、俺、いつまでもガキじゃないんだけど」


 敦大が花菜を軽く睨む。その表情には、まだ少しだけ幼さが残っていた。
 そしてそれは、四年前の可愛らしさを思い出させる。


「あ、ごめんね。四年前の感覚で接しちゃうっていうか……。気を付けるね」

「……。氷、早くしないと溶けるよ」


 そう言って、花菜からアイススコップを取り上げると、彼は素早く氷を入れて冷凍庫を閉めた。
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