Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
もう夜遅かったから、その後は、あまり話せなかったけど、翌朝、私はこれまでの状況を親や看護師さんから聞いた。


そう、あの日。街を歩いていたら、突然前を歩いていたお婆さんが車道に倒れ込むのが見えて、ビックリして駆け寄ろうとしたのは覚えてる。


結局、そのお婆さんの身代わりになる形で、車に轢かれてしまった私は、以来昨日の夜まで、昏睡状態のまま。あの日がクリスマスイブ直前の土曜日で、今はもう2月だから、本当に2ヶ月近く、眠り続けていたなんて、全く実感はない。


今朝、病室に現れたお医者さんは、昨夜とは違う人で、この人が私の担当医なんだそうだ。


頭や身体の痛みの有無や、何か思い出せない事やわからなくなってしまったことがないかと尋ねられ、とりあえず今は特にないと答えると


「現状の検査でも、異常は認められないし、心配していた記憶障害や頭の痛みもないのなら、確かに2ヶ月の昏睡状態はあったけど、あのクラスの事故にしては、まず奇跡的と言っていいくらいの回復だ。だが頭部のケガは後遺症がしばらくしてから出ることは、決してレアケースではないから、ケアは怠れない。あとはなんと言っても、約2ヶ月、寝たきりで、体力が弱ってるのは、間違いないから、その回復を待ちながら、もう少し様子を見よう。」


と言われた。頷いてお礼を言う私に


「ご両親や友達、それに彼氏の君に対する献身的な看護やお見舞いに足繁く通う姿に、君が周りから如何に愛されてる存在なのかがよく伝わって来た。皆さんに感謝しないとな。」


と微笑むと、先生は出て行った。


(彼氏・・・?)


その後ろ姿を見送りながら、私は首を捻った。


午後になると、面会時間の始まりを待ちかねたように、美里が病室に飛び込んできた。


「梓!」


そう叫ぶと、やっぱり目に涙を一杯浮かべて、半身を起こして、出迎えた私に抱きついて来る。


「美里、心配掛けてゴメンね。」


と謝る私に


「なんでもっと早く目を覚ましてくれなかったの?梓がいなくなっちゃうんじゃないかって、夜も眠れなかったんだよ。梓のバカ〜!」


そう言ってワンワン泣く美里の背中を私は優しく擦る。


「本当にゴメンね、美里。ありがとう。」


私には、こんな台詞しか出て来なかった。でも嬉しかった。
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