Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
しばらくして、私達が落ち着いた頃、何食わぬ顔をした澤城くんが入って来た。


「サワ、随分長いトイレだったじゃない。」


千尋がやや皮肉げに言うと


「ここんとこ、腹の具合が悪くてな。仕事のし過ぎかな?」


と悪びれずに答える。


「じゃ、せっかく病院に来たんだから、診てもらったら?」


私が追い討ちを掛けると


「この病院、救急以外は、予約患者しか受け付けねぇらしいから、また今度な。」


と涼しい顔。そんな澤城くんを見ていた千尋は、急に思い付いたように


「イチゴ買って来たんだ、食べない?」


と私に聞く。


「ありがとう。」


「じゃ、ちょっと洗って来るね。」


と言って、出て行く。ねぇ、洗面所がそこにあるんだけど、2人ともミエミエの気遣いだなぁ・・・。


「吹っ切れたみたいだな、アイツ。」


その後ろ姿を見送った後、澤城くんが言った。


「内田の奴、昨日辞表出しやがった。」


「えっ?」


「課長に速攻、破かれてたけどな。」


そうだったんだ・・・。


「石原に合わせる顔がないと思い詰めた末のことなんだろうけど、逃げんじゃねぇって一喝されてた。案外弱虫だよな、アイツ。」


「そう言う澤城くんだって、千尋のこと言える?」


「えっ?」


「あなただって、目を覚ました時は、側にいてくれたのに、いつの間にか消えちゃうし、その後、全然来てもくれなかったじゃない。意識ない時はずっと来てくれてたのに、目覚めた途端に、放置って、酷くない?」


私がちょっと膨れ面で抗議すると


「ちょっと待て。あの時、俺が帰ったのは、面会時間が過ぎたからだし、その後、来られなかったのは、溜まってた仕事を、必死に片付けてたから。他意はないぞ。」


と言い訳して来る。


「どうだか?」


「おい、石原・・・。」


「じゃ、メールも電話もくれなかったのは?」


「そりゃ・・・俺達、そんな仲じゃないだろ、もともと・・・。」


その澤城くんの言葉に、場の空気があっという間に固まってしまった。
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