Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「石原、顔上げてくれよ。」


少ししてから、降って来た声。私は、ハッと顔を上げて、澤城くんを見た。


「驚いたなぁ、生まれて初めて告白されちまったよ。それも石原から、ビックリだよ。」


「澤城くん・・・。」


「お前も変わった奴だな。こんなコミュ障男のどこがいいんだ?それも10年以上、思い続けてくれてたなんてな。」


その澤城くんの言葉に、私は思わず、恥ずかしくなって、下を向く。


「素直に感謝するよ、光栄だとも思ってる。だけど・・・すまねぇけど、答えはノーだ。」 


その澤城くんの返事を聞いた時、私は全身から、血の気が引く思いがした。私は顔をあげて、彼を見る。


「俺達は同級生だけど、俺はまだ、社会に出たばっかりだ。これから覚えること、やらなきいけないことが山ほどある。今は、それだけを考えていたい。それに・・・。」


ここで少し間をおいた澤城くんは、意を決したように、私に告げた。


「俺達が付き合うって言うのは、正直、ちょっと違うんじゃないかって気がする。」


その言葉を聞いた私は、愕然とする。


「それは・・・佐久間くんのことがあるからってこと?」


やっとの思いで、そう聞いた。


「さっきもう怒ってないって、言ったのに。それに、翔真だって、そんなこといつまで気にしてるんだって、きっと言ってくれるとは思う。だけど・・・お前の顔を見ると、やっぱり翔真のことを思い出す。それは正直、辛い。」


そう言った澤城くんの表情は曇る。


「悪く思わないでくれ。別に石原の顔見なくたって、アイツのことを思い出さない日はない。俺は、親と同じようにアイツにも毎朝、線香上げてるから。」


澤城くんの親友だった佐久間くんは、高校卒業を間近に控えた春の日、バイク事故で還らぬ人となった。


「ごめん。こんな返事で、お前を傷付けてるのは、わかってる。だけど・・・許してくれ。」


そう言うと澤城くんは、私に一礼した後、テーブルの伝票を掴むと、立ち上がって行ってしまった。


私は、その姿をただ見送るしかなかった。
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