Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
私、石原梓が務める㈱マルタカは、食品メーカー。多くの人に、調味料の代名詞として知られる商品を看板にしたグループ傘下の会社で、冷凍食品を取り扱っている。


私の所属する「マーケティング企画部」は市場動向の調査を担当するマーケティング課とその調査に基づいて、新商品や既存商品の改良を企画する企画課から構成され、私と千尋はマーケティング課の一員。


普段は、課ごとに別れて実施する朝礼だが、この日は新入社員の着任ということで合同。


部長の簡単な話があった後、各課長に先導される形で、4人の新入社員が入室して来ると、私達の視線が一斉に彼らに注がれる。


各課に仲良く男女1人ずつ配属される新人達は、先輩達の視線の前に緊張は隠せない。


両課長に挟まれる形で、私達の前に立った4人は、促されて、1人ずつ自己紹介を始める。


名前と出身大学を言ったあと、簡単な自己PR。2年前の自分を思い出して、微笑ましくも彼らの緊張ぶりにやや同情的に、私は挨拶を聞く。


まずは私達の課の新人2人の挨拶が終わり、3人目の企画課の新人男子に視線を移した時、私は思わず息を呑んた。


(えっ?)


「立明大学大学院卒の澤城裕孝(ひろたか)です。新入社員としては、やや年を食ってますが、よろしくお願いします。」


動揺する私の耳に入って来たのは、確かに聞き覚えのある名前だった。
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