Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「行きたくねぇな。」


朝起きて、そう思うようになって、しばらく経った。登校拒否ならぬ出社拒否か・・・我ながら情けないと思いながら、それでもベッドから起き出す。


両親と爺ちゃん、婆ちゃん、それに翔真にいつも通り、線香を上げたあと、食卓につくと、栞菜が朝食を並べてくれる。


「しっかり食べて、今日も頑張ってね。」


「お前はオフクロか?」


「そんな軽口が叩けるんじゃ、大丈夫だね。さ、食べて、食べて。私も学校行かなきゃならないんだから。」


偉そうな言い方をしてしまえば、この妹と弟は、俺の背中を見て、育って来た部分は確かにあるはず。ちょっとくらい、壁にぶち当たったくらいで、めげる姿を見せるわけにはいかない。


食欲はなかったが、全て平らげ、身支度を整えた俺が


「じゃ行ってくる。今日も遅くなるだろうから、夕飯は自分達でやってくれ。」


と言って出掛けようとすると


「わかった。兄さん、これ。」


と栞菜がなにやら包みを出して来た。


「なんだよ、これ?」


「マグカップ。昨日梓ちゃんと買い物行った時、ちょっと目について。会社の休憩時間に使ってよ。私に応援されてるって、思いを馳せながら。」


「そうか、ありがとう。じゃ遠慮なく。行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


なかなか可愛いことを言ってくれるじゃないか、俺は素直に嬉しかった。


会社に着いて、開けてみると、コーヒーブレイクに使うには、ちょうどいい大きさのカップが出て来た。


(なかなかセンスいいじゃねぇか。)


デザインも俺好み、さすが我が妹だ。悦に入りながら、デスクの隅に置いていると


「おはよう。」


と俺の後ろを通り過ぎる石原の声。


「おはよう。」


俺はそう返すけど、石原は特に俺を振り返るでなく、そのまま自分の席に行ってしまう。


今日も1日が始まる。
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