愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第十三章
水曜の朝。

――昨夜は眠れなかった。
晃良と一緒にいるところを見られたのもショックだったし、星佑が女性といたのもショックだった。

声をかけたりしないのは、きっと揉め事にならないためのルール。
そして彼が一緒にいたのも、そういうルールの上で付き合っている人妻なのだろう。
自分はそういう愛人の中のひとり。
そう思うとやっぱり悲しい。

社長室の前で立ち止まる。
今日の出勤時間はギリギリだ。五分の余裕もない。

ハァとため息をついて気合を入れた。
――もう少しだ。
今日を入れても、たった三日。がんばるぞ! おーー!

よっしと気合を入れて、扉を開ける。
「おはようございます」
いつものような笑みを浮かべて、変わらない声で、変わらない挨拶をした。

なのに……。
星佑は皮肉めいた視線を投げる。
「おはよう」という声もなにやら含みがある。

そして彼は、「夫のご帰国か」と言った。

美海はムッとしたまま、それには答えない。

「恋人が沢山いらっしゃって、忙しいですねー」
キッと睨み、ツンと澄ました。

確かに偽夫の帰国ではあるが、なにかあったわけではない。ただ食事をしただけだ。
――あなたとは違うんですっ!

星佑は席を立ち、ゆっくりと歩みをすすめて美海の前に立った。

「俺は、仕事の付き合いだ。君は? あれからどうした?」
「へえー、どんなお仕事なんですかぁ? 夜の九時からホテルでぇ? へえええ」

「ホテルにはバーってものがあるんだよ。で、言ったのか? いま私の浮気相手とすれ違いましたって」
「言うわけないじゃないですかっ! 自分こそっ一体何人愛人がいるんですか!?」

なんだかんだと痴話ゲンカになる。

実は一昨日の夜から、カプセルホテルに泊まっていた。
晃良はホテルに泊まると言っていたが、遠慮したのである。せめて日本にいる間は自分の部屋に帰ってくださいと。
だからやましいことなど本当に微塵もないのである。

お昼休み、晃良から電話があった。
晃良の知人が経営する会社で、求人があるということだった。

「ほんとですか? ありがとうございます」
その日の夜も晃良とディナーの約束をする。

電話を切った晃良は。
夕べの美海を脳裏に思い浮かべていた。
すっかり大人っぽく綺麗になった美海に魅了されていたのである。


そしてその夜、美海は晃良に迫られる。

「僕たち本当に結婚しちゃおうか」
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