私の中におっさん(魔王)がいる。
「まだ疑っておいでなのですか、毛利様」

 正面には正座をしながら柔和に笑う、灰色の髪の青年がいた。
 中性的な顔つきの青年は、静けさの中で佇むように座っている。

「信じていただけたから、こうしてここにおいでになられたのだと思っていましたが」

 毛利と呼ばれた冷たい瞳をした男は、金色の瞳を薄日に鈍く光らせた。

「ないとは言い切れない、そう考えただけだ」
「あらゆる可能性をお考えになる。さすがは毛利様です」
「世辞はいらん」

 ないとは言い切れない――しかし可能性はないに近い。そう続く言葉を呑み込んだ毛利を、青年は察して煽(おだ)てた。
 その浅ましさを毛利は一蹴した。

「ほんの少し、お力を貸して頂くだけでいいのです」

 青年は内心、苦虫を潰したような心持だったが、やわらかな声で聴許を促した。しかし毛利の答えは彼をさらに不愉快にする。

「力というのは、生命に必要なエネルギーか?」
「……ご存知で」

 可能性はないに近いと内心で思いながら、そんなところまでしっかりと調べている。これだからこいつはやっかいだ――と、彼は内心で苦々しく毛利をねめつけた。

「まあ、本当に魔王を呼び出せるのなら、そんなことは微々たることだが――もしや風間(ふうま)、貴様よからぬ事を企んではおるまいな?」

 表情を変えず、抑揚もなく発せられる言葉は、相手に自分の真意を僅かにも感じさせない。
 なにか企んでいる者はひやりとし、なんの企みもない者すらも疑心暗鬼の恐怖を感じるだろう。
 しかし、そんな毛利を相手取り、風間と呼ばれた柔和な面持ちのこの男は、易々と笑って見せた。
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