私の中におっさん(魔王)がいる。
 見渡す限り、木と芝生と藪しか見えない。獣道もいつの間にかなくなってしまって、私はとりあえず藪は避けて進んでいたんだけど、もうそろそろそれも限界かも知れない。
 戻ろうにも、どこをどう通ったのかわからない。

「完全に、迷子だぁ!」

 私は泣きたい気分で叫んだ。
 このまま遭難しちゃったらどうしよう。熊とかでる森だったらどうしよう。ひとたまりもないよ、私なんか。
 それどころか、食べ物もないし、水もない……。

「これって、かなりヤバイ状態なんじゃない?」

 青ざめながら、思わずぽつりと呟いた。

「スマホがあれば、助けを呼べるのに。私の鞄、どこ行っちゃったんだろう?」

 あの白い空間ではたしかに持ってたのに……。空から落ちた時に落としたんだ。いやいや、ちょっと待って、そんなことあるはずないってば。あれは夢なんだから。
 ダメだな。パニっくって変なこと考えてるよ。

「グギャア! グギャア!」
「きゃあああ! ――わわっ!」

 奇怪な鳴き声が森に響き、慣れない下駄に思わず足を滑らせた。
 豪快に尻餅をつく。

「うう……痛い。もう、最悪!」

 お尻を擦りながら体を起こす。
 するとその先、大きな木の根元に、見慣れた黒い塊があった。

「あれって――」

 期待に胸が躍る。私は駆け出した。

「鞄だぁ!」

 木に引っ掛けたのか、破けたり傷ついたりもしてるけど、まぎれもなく私の鞄だ。

「スマホ、スマホは無事!?」

 ガサゴソと鞄を漁ると、水色の皮に蝶々の絵柄がプリントされている手帳型ケースが現われた。急いで開いてみる。

「すごい! 奇跡じゃん、壊れてない!」

 壊れた様子はどこにもなかった。それどころか傷一つない。

「やった! これで助かる! えっと、とりあえず家に……いや、警察のほうが良いかも」

 浮かれ気分で番号を押した。プップップップ――と、音がする。

(早く繋がって!)

 祈ったときだ。
< 46 / 116 >

この作品をシェア

pagetop