一緒に歌おう〜国も、色も、血も越えて〜
ひとりごとを言いながら、音羽は部屋の奥へと入る。そこには、マイクやパソコンが置かれている。

「次はLemonを歌おうかな……。それとも、シャルルを歌おうかしら……」

音羽は、ユールヒェンに隠していることが二つある。一つは、歌い手Miraiとして活動していること。そして、もう一つはーーーユールヒェンに音楽の才能がないと気付いていること。



「Guten morgen(おはよう)」

朝、黄色のロングスカートに白いフリルのついたトップスを着た音羽は、白いパーカーと黒いスキニーパンツ、デニムジャケットを羽織りボーイッシュな格好をしたユールヒェンに挨拶する。

「音羽!ザッハトルテ昨日作ったからもらってくれない?」

ザッハトルテとは、古典的なチョコレートケーキの一種だ。音羽の目が輝く。

「Wahr!?(本当!?)Danke!(ありがとう)」

「あんた、ザッハトルテ好きだもんね」

クスクスとユールヒェンは笑う。そして、箱に丁寧に入れられたザッハトルテを音羽に渡した。
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