白井君の慰め方
白井君は特別な人

出会いは一番思い出に残る



「君、俺の事好きなの?」

他校に通う先輩の姿を、毎日毎日帰りのホームで探していた。ここでしか会えない先輩に一目で良いから会いたくて、同じ車両に乗りたくて、どこの学校の誰なのか人伝いに調べたりしてーー…

「じゃあ俺と付き合う?」

帰りの電車待ちで並ぶ中、隣に立つ先輩が覗き込むようにしてそんな夢みたいな事を言うものだから、何が起こってるのかも分からないまま頭を空っぽにして頷いた。とにかく目をまん丸にして頷いた。

嬉しかった。奇跡だと思った。目の前がぼんやりとした後キラキラ輝き出して、今私は夢の中にいるんじゃないか、なんて思ったくらいだ。だって先輩とはまだ話した事も無い。私の存在を知ってくれていただけでも有り難くて舞い上がってしまいそうなのに、それがまさか付き合う事になるなんて!

そのまま連絡先を交換して、先に先輩が降りる駅に着いて別れた後、何度も何度も追加された名前を確認した。人から聞いて知った先輩の名前が今、本物として手元にある。震えたスマホと同時に浮かびあがった通知と、先輩からの『これからよろしくね』の文字。もう一生分の幸せを使い果たしたような気分だった。幸せ…幸せ過ぎて怖い…そんな毎日が、私が都合良く解釈していた現実が、今、本物の現実により見事に打ち砕かれた。

ーー『あの人彼女いるらしいよ』

それは、先輩に声を掛けられる前から分かっていたはずの事実だった。彼女が居る事なんて百も承知の上で片思いを続けた結果、奇跡が起きたのだと思ったんだ、始めは。でも付き合ってる内にどんどん露わになる、先輩のもう一人の彼女の影。もう一人の、というか…

「私が、浮気相手なんだ」

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