白井君の慰め方
…けれど、
「違うよ」
ちゃんと聞いてと、続きを聞き逃さぬよう促す。その想いの熱量を感じ取り、俯いていた顔をチラリと上げると、彼から真っ直ぐに注がれる視線に射抜かれて、身体が石のように固まってしまった。彼から目が離せない。
「無理した事は一度もないよ。苦手で下手な自分が嫌になるくらい、もっと上手く出来たらいいのにっていつも思う。相原さんにだけ、そう思う。気になって、余計に優しくしてしまう。それはきっと傍に居て欲しいから」
「……」
「俺は笑ってる相原さんが好きだし、相原さんが作る世界が好きだ。だから相原さんがキラキラ笑ってくれるならなんでもしたいし、なるべく傍で見ていたい。俺にだけ見せて欲しい。それは俺だけを見て欲しいって事なんだって、気がついてーーそうだ、気がついた」
その瞬間、白井君の両手が私の両手を掴んだ。ギュッと力を込められて、強い感情が私へと向けられる。いつもの表情に乏しく、飄々とした態度で友人に接する彼からは想像もつかないそれに、私は魅入られた。
「俺、相原さんが好きなんだ」
彼は、ギラギラと力漲る瞳で食い入るように私を見つめ、私もそれを見つめ返した。彼の興奮が移ったように、私の心臓の鼓動が強くなる。彼の見せるそれはまるで、自分の立てた仮説が正しいと立証された時のような誇りと自信に満ち溢れていて、それでいて新たな世界での未知との遭遇に期待し、胸躍らせているような、そんな嬉々とした表情だった。そんな彼を見るのは、勿論初めてだった。
きっと白井君は今、自分がどんな表情をしているのかも気付いていないと思う。白井君は、笑っていた。純粋と興奮を織り交ぜた様子で笑っていた。そんな彼を見ていたら…たった今想いを告げられたはずの私なのに、何故かそういう実感が湧かなかった。一番大好きな人に告白されたはずなのに、そういう方向性での彼の想いが全然見えなかった。
…だからだろう。
「あっ、ありがとう…嬉しいです」
胸を熱くする興奮が乗り移ったまま、まるで賛辞に対する返事のような感覚で、自然とその言葉を口にしていた。それがどういう意味になるのかなんてこれっぽっちも考えなかった。