二人を繋ぐ愛の歌
怒ってないから
昨夜の陽人の電話のせいでドキドキしすぎて中々寝つけず、若干寝不足の状態となった沙弓は欠伸を噛み殺しながら出勤した。

今度から陽人からの電話には細心の注意を払わなければと思いながら、会社の受付フロアの一階でエレベーターが下りてくるのを他の人達と一緒に待っていると後ろから、嶋川さん!と声をかけられたので振り返るとそこには南尾がいた。

「やっぱり嶋川さんだった。
おはよう」

「おはようございます」

「久々に会えたね。
嶋川さんに朝から会えるなんて嬉しいな」

にこっと本当に嬉しそうに微笑む南尾の笑顔と思いもよらなかった言葉に沙弓は驚きのあまり目を見開き、大きく後ろに一歩下がって距離を取ってしまった。

先日、チャンスが欲しいと言った南尾は大々的に沙弓にアプローチしていくことに決めたのか、エレベーター待ちをしている社員が溢れるほどいるというのに、恥ずかしげもなく“会えて嬉しい”なんて言ってのけた。

イケメン、高学歴、高収入、将来性もありの彼氏にしたいナンバーワンが人目も憚らずにこんな事を言うものだから、そこに居合わせた人達は固まり、数多くの女性社員からは悲鳴が上がった。

ほとんど残業がなく、人間関係もギクシャクしてない土日祝の休みも完備という今時ホワイトな会社だったのに、これからは人間関係に苦労してしまいそうだと沙弓は朝から現実逃避したくなっていた。
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