太陽と月の物語

3月の連休に、朝陽と空を連れて生まれ育った故郷に帰るのがここ数年のお決まりだ。

朝陽のお姉さんも、アサも、心も、亡くなったのはみんな3月だから。故郷に帰ってお墓参りをする。

最近、何でもやりたがる空にお墓に水を供えてもらおうと思ったら……俺が水をかぶる羽目になってしまった。
結果、朝陽と空にお漏らしとからかわれる始末。違うのに。断じて違うのに。

「桜咲いてたよ」
「こっちは早いなぁ。奈良はまだまだ蕾が固いのに」
「少し遠回りしてお花見しながら実家に行こうよ」
「いいな。それ」

その頃には、春の陽気に晒されて、濡れたズボンも乾くかもしれない。

「あ、動いた!」

朝陽が嬉しそうに顔を綻ばせ、手をお腹に当てる。

「今、ここ!触って!」

朝陽が俺と空の手を自身のお腹に持っていく。だけど俺はイマイチ分からない。

「……ごめん。分からない」
「ええ〜?こんなに蹴ってるのに」

朝陽のお腹には空の妹か弟になる新たな命が宿っている。最近、動くようになったという我が子。
俺はその奇跡的な瞬間に未だ立ち会えずにいる。

「空に似て寝相が悪い子になるんじゃないか」
「そうかも。足癖悪そう」

朝陽は困ったように半笑いだ。
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