太陽と月の物語

アキラさんは私の首筋に顔を埋めてくる。

「さっきの男がホワイトデーに会う男なの?親しげに名前を呼ばれてたけど」
「おおよそ15年ぶりぐらいに呼ばれたけど」

麻子と心くんが亡くなってから、「朝陽」なんて呼ばれなくなった。きっと私とよく似た名前の麻子を思う出すからだろうな。

「え。そんなに付き合い長いの!?」

でもアキラさんが驚いたのはそこらしい。

「うん。中学の同級生。で、今は私の上司」
「明日会うの?」

明日はホワイトデー。
忘れたくても忘れられない大切なもの全てを失ったあの日。

他の男性に誘われてもこの日だけは全て断って、毎年、真月と過ごしてきた。

「会う」
「そっか……」

身体を離したアキラさんがテーブルに置かれたマグカップに手を伸ばす。その横顔が寂しそうで悲しそうで、自分がそんな顔をさせていると思うとたまらなく胸が締め付けられた。

「……ごめんなさい」
「朝陽が……謝ることじゃない。俺は恋人じゃないんだから、君を咎める権利なんてない」
「でも……」

私は貴方を苦しめたかったわけじゃない。バーで浴びるようにお酒を飲んでいた貴方がもう一度歩き出すまでの雨宿りの時間を共に過ごしたかっただけ。

私との時間を踏み台にして、もう一度立ち上がってくれたら良かっただけ。そのための刹那的な時間が貴方との逢瀬だった。

「でも君が好きだってことだけは忘れないでほしいな」
「どうして私を好きだと言うんですか」
「好きな人に好きだと言ったらダメ?」

そんなことは聞いていない。
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