太陽と月の物語
Cry for the moon

♢side月


朝陽のお姉さんが死んだ。
僅か31歳だった。

朝陽のお姉さんとは関わりがなかったが、気落ちしているだろう旦那さんの将大さんが気になり、お通夜に出席した。

将大さんは俺が陸上を辞めたあとも、ずっと連絡をくれていた人だった。最初はほっといてくれと思ったけれど、周囲が腫れ物のように俺を扱う中、今まで通り、憎まれ口ばかり叩いてくる将大さんには救われた。

朝陽と将大さんがいなかったら、俺の心はとうの昔に潰れていただろう。二人には本当に感謝している。

将大さんはお通夜の席でキビキビ動き回っていた。来訪者への挨拶や式の段取り。やることは多く、喪主である彼は決めることも多い。気丈に振る舞っているんだろうなと思った。

一方の朝陽は心ここにあらずと言った感じだ。視線は何も捉えていなくて、息をするのを忘れていないか心配になるぐらい静かだった。

15年前のいつの日かと同じ目をしていた。
俺たちが初めて抱き合ったあの日の夜。朝陽まで何処かに行ってしまいそうだった。
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