光りの中
 顔を腫らしたままでエル・ドラドに出勤する状態が続き、そのままでは客の前に出れないからと、仕事も休みがちになった。

 そうなると、紀子の収入で暮らし向きを当てにするようになっていた両親がカツヤとの付き合いに口を挟むようになった。

 当然の事であろう。

 それよりも、笑ってしまう事にカツヤ自身が紀子におんぶに抱っこの状況だったから、自分の暴力を棚に上げて紀子に店へ出ろとせっつく始末。

 そこで又喧嘩になり、カツヤが手を上げる。

 悪循環だ。

 ある日、カツヤの暴力を見かねた紀子の父親が直接カツヤにその事を言った。


「あんたなあ、紀子の事をほんまに思うとるんなら、手えだけは上げたらあかんやろ。
 わしがくすぶってしもうたから紀子には苦労掛けとるが、その分あんたは労って上げて欲しいんよ」

「はあ……」

「正直言うて、うちの嫁はな、紀子があんたと付きおうとる事自体、余りよう思おうとらんのよ。
 わしはこれこの通りのていたらくやから、なぁんも言える立場や無いから、とにかく二人が仲ようやってくれたらそれでええと思おとる。
 あんたがあの子をどんだけ好いとるか判らんが、あの子は間違い無くあんたに惚れとる。それだけは判っといてや」


 父親の話しに頷くカツヤではあったが、しかし腹の底迄は読み取れなかった。

 その証拠に、紀子への暴力は一向に改まらず、寧ろ酷くなる一方であった。

 紀子の表情から快活さが消えた。

 カツヤの目に余る暴力行為が一年、二年と続きながらも、不思議な事に紀子は一度としてカツヤとの別れを考えなかった。

 店側も何度か紀子にカツヤと別れるように諭した事もあったが、彼女の意思は頑なであった。

 カツヤの紀子に対する不条理さは、暴力に留まらず、女関係にも現れ始めた。

 元々、女に持て囃されるタイプだったから、簡単に引っ掛ける事が出来た。

 一夜の遊びでは終わらず、何時しか何人かの女と付き合うようになっていたのだ。


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