光りの中
 AV出演が両親にばれたとは言え、紀子は辞めるつもりは毛頭無かった。

 父親の怒りようは、それは凄まじいまでに激しかったが、しかし、直接紀子に対してそれが向けられる事は無かった。

 母親とは、定期的に電話のやり取りをしていたが、その都度愚痴をこぼされた。

 最愛の一人娘がAVの世界に入ってしまった事に対する怒りを母親にぶつけているらしい。

 父親としてのジレンマも在ったのだろう。


 あのまま会社の経営が上手く行っていれば……

 高校の学費迄紀子に払わせてしまった……


 更には会社の借金返済の負担迄負わせてしまっている。

 まとまったお金が送金されて来た時、どうやってその金を作ったのか、と疑問に思う事も無く、喜んでそれを受け取り、会社の借金に充てた。

 その金の出所がAVの出演料と判ったあと、当然複雑な気持ちになった。



 大手のプロダクションから出された数本のビデオは、特別売れた訳では無かったが、この頃は、取り敢えず出せば赤字にはならなかった時代であったから、そこそこ会社も紀子にまとまったギャラを振り込んで来た。

 最初の時は、一円にもならず、結局数人の男達の慰みものになっただけのようなものであった。

 この世界も、やってみると意外な面を多く見れ、仕事に関わっている時はそれなりに刺激的だった。

 しかし、それも長続きはしなかった。

『エル·ドラド』で働いていた時には、まだ心の中に充足感を持つ事が出来たが、この世界は刺激は与えてくれても精神的な満足感は得られない。

 日が経つにつれ、その思いは強くなって行く。

 家族との葛藤も、紀子の心の水瓶から水気を吸い上げていた。

 何かを欲していた。

 その何かが見つからない。

 自分が男一途に己の心を充たせられる女では無いと気付き始めた。


 アタシは大人しく家庭に納まる女やないのかな……

 男の都合の良い女になってまで生きたくはない……


 心の揺れが、紀子に舞台を引き合わせた。


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