光りの中
(お疲れ様です)

「お疲れ……」

(そっちの初日はどうですか?)


 屈託の無い佐伯の声を聞き、昨日迄の事を思い出してしまう。

 どう言い繕っても、いずれ今日の事は知れてしまう。


「飛んでもうた……」


 努めて明るく振る舞おうとしたが、次の言葉が口に出るより先、涙が溢れて来た。


「アタシ……アタシ、もう舞台に戻れへん。皆に、皆にちゃんとサヨナラしてへんのに……」

(…………)

「こんな終わり方、絶対したくなかったのに……」


 台所で雅子が心配そうに見ている。

 啜り泣きだったのが、言葉を発する毎に号泣へと変わる。

 涙を流した事は一度や二度では無い。

 AVの撮影が辛くて泣いた事もある。

 恋に破れて泣いた事も……

 だが、この時程身体の奥底から絞り出すように涙を流した事は無かった。

 とめどなく……

 狂わんばかりに泣きじゃくり、携帯を切ると投げ捨てた。

 その携帯を雅子がそっと拾い、電源を切る。

何も言わず、姿月の横に座り、肩を抱いた。



 どれだけの時間そうしていたのだろう。

 気が付いたら雅子の膝の中で寝ていた。

「ノリちゃん、まるで赤ん坊みたいやなぁ」


 微笑む雅子につられて姿月も照れ臭そうに笑みを見せた。


「そんな事言うたかて夕べは一睡もしてへんかったんやもん」

「泣いて忘れられるもんは、とことん泣いたらええんや。うちなんか泣き方すら忘れてしもうた」

「どういう意味?」

「ええかノリちゃん、人の世はな喜びがあって悲しみがある、怒りや憤りがあって当たり前なんや。何も無くてただ平々凡々と人生が過ぎて行っても、生きて行くという事の調味料にはならへん。
 あんたの人生、まだまだやないの。何も今日で全てが終わった訳やないのやで。辛い事があった後は、必ず良い事があるもんよ。絶対にそうなってるんやから」

「ママ……」






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