涙、夏色に染まれ
 あたしがギターを弾くきっかけになった、地域を巻き込んでの学習発表会。そこで披露した曲が「あの青い空のように」だった。
 あたしは三人に訊いた。
「歌詞、覚えてる?」
 三人ともうなずく。

 あたしと明日実、良一と和弘がペアで、あたしたちが主旋律、良一たちが副旋律を歌った。
 声変わりした良一と和弘には、小学生の合唱曲って、ひょっとしたらきついかもしれない。大丈夫かと訊こうか迷ったけれど、やっぱりやめた。どうにか歌うだろう。もともと、二人とも歌が下手ではないし。

 「あの青い空のように」は、ヘ長調の曲だ。ギターコードでいえば、Fメジャー。ファソラシドレミファのナチュラルの多い音階で、シだけがフラットになる。間奏に入れたリコーダーでは、和弘がシの指遣いに苦戦していた。

 あたしはピックをつまんだ。音楽室を見渡す。防音効果の高い、ポコポコと穴の開いた独特の壁と天井。ギターの練習を始めたばかりのころ、すぐに指も手も腕も肩も痛くなって、途方に暮れて、ため息をつきながらあの壁と天井を眺めた。
 ピックをつまんで、そっとささやく。
「うまくなったよ。あたしは」

 ピアノを習っていたあたしは、小学生の割に指の力もあったし、関節も柔らかかった。だから、最初からそこそこできてしまったけれど、練習を重ねた今では、左手は苦労せず六本の弦を押さえることができる。ごまかしのFしか弾けなかったのは、昔のことだ。

 和弘は、ビニール製のギターケースをうまいこと台にして、そこにカメラを置いて角度を合わせた。
「マイクのバランスって、あるやろ。歌うときは、きれいなバランスで撮りたかけん」

 あたしは、ふと思い出して、フードをかぶった。ますます蒸し暑い。でも、このほうがいい。あたしは良一を振り向いた。
「歌う動画は、hoodiekidのほうがいいでしょ?」
「そうだね。ありがとう。演出に協力してくれて」
「別に。弾くよ」
「うん」
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