涙、夏色に染まれ
 歌い終わったのに、二番までしかない短い校歌は終わってしまったのに、ありもしない後奏をくっつけて、なつかしい唄をギターの旋律でもう一度たどる。みんな聴いている。泣きながら。あたしが演奏をやめるときが、サヨナラの瞬間だ。

 悲しい。でも、よそ者であるあたしの悲しみなんて、明日実や和弘たちのいだく本物の喪失感とは違うんだろうと思う。生まれたときから絶対にそこにあると信じてきたものを、明日実も和弘も失うんだ。あたしは、ここから去っていけるけれど。

 だから涙は流さないと、卒業式でも閉校式でも、唇を噛んで目を見開いた。明日実よりも激しく泣いてしまったら、和弘に「わかるよ」なんて言ったら、どこかに嘘がまぎれ込むような気がして。
 同じ場所に立って同じ悲しみにひたることができなくても、せめて、できるだけ嘘のない自分でいたくて。

 唄が終わる。あたしは、最後のCメジャーを掻きむしって、一本のギターに出せる最大限に華やかな音で、ラストをしめくくった。
 余韻。セミの声。潮風が山を駆け抜ける音。

 明日実が再び声を張り上げた。涙をこらえて、はち切れそうな声だった。
「気を付け、礼! 真節小学校、ありがとうございました!」
 ありがとうございました! 全員が、腹の底からの大声で言って、深々と礼をした。泣き声があちこちから聞こえた。
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