キミに、愛と思いやりを

身支度は完了になり、あたしは玄関で黒い靴を履いた。



「行ってきます!」



「お母さんもすぐに行くからね」



「うん!」



家を出ると、チューリップはない。
受験勉強に専念するため、中3の秋からガーデニングは無しと、お母さんに言われたからだ。


少し、寂しい。まるで庭に、春が来ていないみたい。春の輝きがないように見えた。


けれど今日から高校生だ。これくらいのことで、寂しがっている場合じゃない。
あたしは、少し足を弾ませた。



「……あっ」



あの時と同じだ。
桜は、ピンク色に染まった雨のように降り注いで、春風はスカートや髪を揺らしている。去年までは紺色のスカートだったけれど、今は黒いスカート。相変わらず春風は揺らして、通り過ぎていく。


……見つけた。
チューリップの花が、どこかの家の庭に咲いていた。色とりどりで、目を楽しませてくれる。春風がふいてきて、なびいている。


ウグイスの鳴き声も聞こえてきた。ひばりやツバメも鳴いていて、春の音楽を奏でている。




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