アンバランスな苦悩
「何した?」

俺は腰に手をやった

ナイフの柄が俺の手の中に納まる

刺された

俺は桜さんの男に
恨まれて

刺された


膝をついて
手を床についた

痛みが
全身を駆け巡る

途端に
呼吸の仕方がわからなくなる

呼吸は浅くなり
視界もぼやける

中年男は
後ずさり

壁に背中を打った

「あんたがいけないんだ
俺の桜を奪うから」

奪ってねえし

奪われたの俺のほうだ

俺の生活が
桜さんに
奪われてるんだよ

ポケットから
必死に携帯を出す

救急車を呼んで
それから

「俺……
なんも悪くないからな

俺は刺してない

あんたが刺そうとしたから

俺が刺したんだ」

勝手に
妄想してろよ

マンションの住人が
エントランスでの惨劇を目撃し

叫びを声をあげた

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