足立古書堂 謎目録
目録の一 幽霊の眼
俺たちサッカー部が部活を終えて、部室で着替えようとしたときに、それは起こったんだ。

ある男子がロッカーを開けようとしたんだけど、開かない。

立て付けが悪いとか、今までそんなことは一つも無かった。

力任せに開けようとしても、ちっとも開かない。

鍵? そんな立派なもん、もちろんついてない。

そいつはもう、全身全霊で扉を引っ張った。

それでなんとか隙間があいて、手を突っ込もうとしたんだが。

そいつ、いきなり叫び声を上げて後ずさった。

何事かと俺らが注目すると、その男は言うんだ。

中になにかいる、俺を今見てた、ってな。

そんなわけないって鼻で笑おうとしたやつは、次の光景を見て絶句したよ。

叫んだ男子のロッカーが、ひとりでに閉まったんだ。

薄くあいてた扉がね、風なんて吹いてないし、吹いてたところで閉まりはしないだろ?

パタン、と音を立てて扉が閉まったのを、そこにいたみんなが見てた。

俺たちは肝が冷えて、怖くなって、着替えも途中で放り出して部室を出た。

グラウンドの隅で俺たちは、なにが起こったのか話してた。

叫んだ男は涙目で、なにかの呪いだの幽霊だのと言ってた。

そんなものはない、と言ったやつもいたけど、確かに目を見た、大きな目だった、とそいつは言うし、ロッカーがひとりでに閉まるところを、みんなが見てた。

恐ろしくて立ちすくんでたところに、部長がやってきた。

どうかしたのか、というから、説明したら、バカバカしいと言って部室に入っていく。

俺たちは恐る恐るついていった。

部長は、問題のロッカーに手をかけて、いとも容易く開け放った。

ひっ、とロッカーの持ち主は声を上げたけど、中にはこれといっておかしなものはなかった。もちろん、目なんてあるわけない。

でもそのロッカーが勝手に閉まったのは、みんなが見てた事実だ。

まだ落ち着かない気持ちを抱えてると、誰かが言った。

全部その男の自作自演じゃないかってね。

みんなその言葉を受け入れた。

なんだ脅かすな、と怒り半分安心半分くらいで言ったけど、ロッカーの持ち主はまだ怯えてる。

嘘じゃない、本当に見たんだ、とそいつは言い募って、みんなは呆れた。

引っ込みがつかなくなったんだと思って。

この話は、それでおしまいになった。

みんな変わりなく、サッカー部の部室を使ってる。

ただ、涙目だったそいつは、部活に来なくなった。

部長はそいつを心配してるけど、みんな、呆れたやつだ放っとけばいい、と言ってる。

なあ、でも、俺には、そいつが自作自演したとは思えないんだ。

本気で怖がっていた。

俺はあいつを信じる。

だからさ、この不可解な出来事、お前はどう思う?
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