この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ドレスのお腹周りは全く締め付けはなくて、ゆったりしている。本当にゼルマさんに言われた通り。
 ゼルマさんのオススメのデザインにしておいてよかった。

 私の支度が終わった頃、ちょうどいいタイミングで部屋にローデリヒさんが現れる。
 私のドレスの色と合わせたのか、同じ深い紺色の丈の長い上着。銀糸で細かい刺繍が入っている。ボタンも銀だし、彼が身につけている装飾品も結構シンプルだけれど、多分凄いお金がかかっているのだろう。

 庶民らしく豪華な衣装の前に気が引けていたけれど、ローデリヒさんも私をサッと全身を見て、真顔で頷いた。


「うん。似合っている。綺麗だ」

「え」


 あんまりにも自然に褒めたものだから、私は固まる。
 え……、綺麗って、綺麗だって言った……。

 そんな私に構うことなく、ローデリヒさんはゼルマさんを含める侍女さん達に「よくやった」と労いの言葉を掛けていた。すっかり流されてばかりだった事を思い出した私も、慌てて侍女さん達に「ありがとう」と続く。
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