この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー



 白髪のおじいちゃんはお医者さんらしい。
 名前はジギスムントさん。かっこいいけど、噛みそうな名前だ。

 顔はしわくちゃだけれど、鼻筋は通っていて、若い頃はさぞかしイケメンだったんだろうなあって予想できる。

 それでおとぎ話の王子様のような金髪碧眼のイケメンは、ローデリヒさん。
 にこやかにしていたら絶対モテそうなのに、ずっと険しい顔つきで腕組みをしている。そんな姿も様になっているのだけれど。

 何回かジギスムントさんとやり取りした結果、難しい顔で結論を出した。


「……記憶が、混濁されている可能性があります」


 いや、全くそんな事ないんだけど……。

 達川有紗(たつかわありさ)という自分の名前も、新川(にいかわ)女子高校二年生という身分もしっかり覚えている。

 ……ただ、私は全国チェーンのファストフード店で友達とお喋りしていた所を最後に、記憶がブッツリ途切れてしまっているんだ。

 今時の女子高生らしく、隣のクラスの王子様系女子がかっこいいだの、誰と他校の人が付き合ってるだの、そんな恋愛話をしていた。残念ながら、私に浮いた話は一つもないんだけど。

 そこまではハッキリ思い出せるのに、この状況もジギスムントさんとローデリヒさんの記憶は全くない。
< 2 / 654 >

この作品をシェア

pagetop