この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
(後編)恋って――

なに?

 十六歳のアーベルが急にタイムスリップしてきた翌朝――。


「…………ぜ、全然眠れなかった……」


 というか、衝撃的すぎて眠れるわけがない。寝不足だったはずなんだけどな。重い頭を抱えながら、ベッドから出る。
 ローデリヒ様の姿はもうなかった。

 寝室のソファーに乱雑にローデリヒ様の寝間着が掛けられているので、多分一緒に寝ていたんだと思う。私の方が早く寝たはずだけど……、ローデリヒ様昨日ほとんど眠れていないんじゃないだろうか。


「奥様?お目覚めですか?」


 扉の外から声がかかって、私は返事をした。部屋に入ってきたのは、ちょっと小太りの白髪のおばあさん――ゼルマさんだ。優しいそうな表情の彼女は、現役バリバリの私の侍女長さんだったりする。

 そして、ローデリヒ様の母方の祖母。
 今世の記憶がすっぽり無くなって、前世の記憶を思い出した時も良くしてくれたし……、今世の記憶を思い出した時もローデリヒ様の祖母という事で甘えてしまっていることが多い。

 身近なところに家族がいるっていいよね。


「お腹、大きくなってきましたね」

「ですよねえ。つわりもおさまってくれたし、成長してます」


 しわくちゃな顔をより一層しわくちゃにして、ゼルマさんは嬉しそうに私の着替えを手伝ってくれる。
< 365 / 654 >

この作品をシェア

pagetop