この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……健康でいてくれればいいんです。…………健康で、幸せでいてくれれば、それで」


 小さな呟きだった。
 でも私の耳にちゃんと届いた言葉は、痛いくらい心に響いた。


「……本当にそうですよね」


 私はこの子も、アーベルも、健康で幸せでいてくれればそれでいいんだ。



 ーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー



「母様、おはようございます」

「おはようアーベル。よく眠れた?」

「はい!」


 十六歳のアーベルが翌朝もいたのはびっくりだったが、一日きっかり経たないと元の時代に帰れない――というか、帰り方は一日経った瞬間に強制帰還以外にないらしい。

 話を聞くと、アーベルくんは昨晩は国王様の元で過ごしたんだと。国王様の体は太……ふくよかだから、かなりベッドが大きかったと無邪気に微笑んでいた。
< 367 / 654 >

この作品をシェア

pagetop