この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
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 いきなりローデリヒが会場から去っていったので、イーヴォは一瞬呆気に取られた。だが、そのまま主君を走って追う。

 廊下を出た時にはもう既に姿は見えなかったが、きっと一番近い部屋にでも入ったのだろうと、扉をノックした。


「殿下ー!!殿下、いきなりどうしたんですか?!大丈夫ですか?!開けますよ?!」


 イーヴォが扉の取っ手に手をかけた瞬間、横から声がかかる。


「殿下ならあちらへ行かれた」

「ゲルストナー公爵?」


 不健康そうな中年の男が眼鏡を上げながら、廊下の先を指さす。そして低い声で叱り飛ばした。


「先程すれ違ったのだ。お前は何をしている?主を一人にするな」

「も、申し訳ございません!」


 ゲルストナー公爵に示された方へと、イーヴォは反射的に駆け出した。ゲルストナー公爵はイーヴォの後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。やがて近付いてくる気配を感じて、そちらへと振り向く。

 夜会用の豪華なドレスで自らを着飾った、赤髪の少女は静かな瞳でゲルストナー公爵を見据えていた。


「お前も陛下の側室から抜けられる。分かっているな?」

「……はい」


 少女は感情の籠らない声で、扉へと手をかけた――。
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