この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……ゼルマさんも言ってました。健康で、幸せでいてくれればいいんです。アーベルも、この子も」


 やや膨らんできた腹部に手を当てる。隣のローデリヒ様がハッと息を呑んだ。腰に回されていた彼の手が強ばる。


「ローデリヒ様?」


 私が首を傾げると、彼は「いや……、」と言葉を濁した。


「少しでも異変があれば言え。無理だけはするな」

「分かりました」


 一人だけの体じゃないもんね。


「確かアーベルが妹だと言っていたな。次は女の子か……」

「言ってましたね。女の子かあ」


 アーベルはローデリヒ様似だったし、次もローデリヒ様似かな?絶対美形だよね。無愛想なところが心配なんだけど、アーベルはニコニコしてたし、ここは本人の性格次第か。


「アリサ似だと良いな」

「どうしてです?」

「アリサに似たら美人だろう?」


 サラッと自然に言われて私の動きが止まった。ローデリヒ様は本気で思っているみたいで、特にふざけた様子はない。……というか、ローデリヒ様が冗談言うようなタイプではないと知ってはいるのだけど。


「ちょ、いきなりなんですか?!」


 一気に顔に熱が集まってくる。お風呂でのぼせたみたいだ。外見褒められるのは初めてじゃないし、ローデリヒ様以外にもあるのに……!

 ローデリヒ様の方をまともに見れない。なんでこんなに緊張するの、なんでこんなに嬉しいの。


「ど、どうしたんだ?!まさか、具合が悪いのか?!」

「違います!!」


 ローデリヒ様が他の馬車に乗っている医者を呼ぼうとした姿を見て、一気に体温はいつも通りに戻った。
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