この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 さっきよりも気持ち的に落ち着いている。
 だから気付いた。
 ローデリヒ様が魔法を使っているらしいということに。馬の上にいるのに振動がほとんどない。
 正直、何の魔法を使っているのか分からない。けど、非常にコントロールが難しい魔法らしい。

 ……めちゃくちゃ伝わってくるんだよね、気持ちが。
 既にローデリヒ様は、切り替えているようだった。
 エーレンフリート様と真っ向から対峙するつもりで。
 エーレンフリート様とは、少なからず縁があったはずだ。血も、交流も。

 ローデリヒ様の上着を握る力が無意識に強くなった。
 彼も私が心を読んだという事が分かったらしい。チラリと私を見下ろしてから、おもむろに口を開く。


「……エーレンフリートとは親戚で、幼い頃から身近な人間だった。王太子という立場上、難儀な事が多い故に友人というものは持ったつもりはないが……、もしかしたら世間一般的な友人とも呼ぶような存在だったのかもしれない」


 私の幼馴染みのルーカスとティーナを思い浮かべる。
 ルーカスは脳筋で、基本的には力で解決しようとする無茶苦茶な性格だし、ティーナは人見知りで引っ込み思案。2人ともそこそこ癖はあるタイプだと思う。
 でも、いざという時は私の為に常識とかそんなのぶっ飛ばして、アルヴォネンの前国王やキルシュライト王国に喧嘩売っちゃうレベルで私のことを考えてくれている。

 きっと、そんな身近な2人が裏切ってたなんて知ったら、しばらく私は立ち直れないと思う。
< 553 / 654 >

この作品をシェア

pagetop