この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「まあ、わたくしが嫌われていたというのもあるけれど、あまりこの子と性格は似ていないみたいね。見た目はローデリヒ殿下にそっくりだけれど、中身は貴女に似ているのかしら?」
「……うーん。どうでしょうか……。こんなに誰に対してもニコニコしてる子供だったかな私……」

 16歳のアーベルを見ていたら、性格はローデリヒ様に似ていないのは分かるけれど。

「返すわ」

 ハイデマリー様は興味を失ったのか分からないが、あっさりと渡してくる。私よりも細い腕だから、抱き疲れたのかも……、なんて思っていたら、扉の外から男の人の叫び声が聞こえた。

 まるで断末魔、みたいな。

 一気に部屋の中の気温が下がった。いや、私の血の気が引いたからかもしれない。

「貴女達は隠れていなさい」

 いきなりハイデマリー様にぎゅうぎゅうと背中を押されて、アーベルと共に洗面所に押し込められる。

「な、何?!一体何ですか?!」
「ローデリヒ殿下の護衛がやられたわ」
「え?それは、どういう……?」
「追っ手がここまで来たという事よ。いい?わたくしが良いと言うまで、この扉は開けては駄目よ」

 眉間に皺を寄せ、黒目がちの瞳に剣呑な色を宿しながら、ハイデマリー様は洗面所の扉を閉めた。
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